[本文の一部]
◇「白昼の強盗事件」
白昼、九重町地蔵原のメーンストリートで起こった強盗事件の話をしよう。もちろん事件といっても虫の話だ。
ベッコウバチ科は黄と黒の横縞(よこじま)模様を持たないクモの狩人だ。彼らの狩りや巣造りはファーブル昆虫記に詳しい。雌は地面に穴を堀り、巣を作ってからクモを狩りに出かけ、麻酔した獲物を巣に運ぶ。
地蔵原で2005年8月11日正午ごろ、オオモンクロベッコウ2頭が1頭のクモを奪い合っているのを撃した。ベッコウバチがクモを引っ張って道路を横断中に、同種の別の個体がこのクモを奪おうとしたらしい。つまり強盗事件だ。
クモの所有者が少し優勢で目的の方向へ引っ張るが、強盗がいどみかかって引き戻す。争いは激しく、2頭のハチとクモが丸い1塊となって転げ回る。所有者は決してクモをは放さなさないが、
強盗は、時々、離れて一呼吸する。その間に所有者はクモを引っ張る。
数回激しい格闘を繰り返した後、強盗が離れて一呼吸した瞬間、所有者がクモを抱えて道路脇の 溝に飛び込んだ。獲物を見失った強盗は、最後に格闘した場所を中心に小さな円を描くように
低く飛んだ。
この探索の仕方から考えると、ハチはそんなに広い範囲が見えないようだ。一回りするとまた その真ん中に戻った。獲物が見つからないので少しずつ円の大きさを広げ旋回した。そして、
時々、思い出したように最後に獲物を見た円を中心に戻り、また旋回した。そして所有者とクモが 消えた溝を見つけ飛び込んだが、獲物はとうとう見つからなかった。
ベッコウバチが最後に獲物を見た場所を中心に円を描き、その円を次第に拡大しながら旋回する 探索方法は、ハチ研究者の間では常識かもしれないが、私は初めて知った。
20年前、私はドイツのある町に到着し駅の案内所で木賃宿を見つけ、タクシーでそこに行き荷物 を残し外出した。そしてあちこち散策するうちに宿の所在が分からなくなった。宿の名前も通りの
名前も覚えていなかった。さあ、あなたならどうする?
その町では中心地から出て行く道が何本も放射状に延びている。その道と交差する通りは円周状で どの方向に歩いても元の所に戻れる。そこで中心地から徐々に円を広げて歩き宿を発見した。私が
知恵を絞って発見した探索方法をベッコウバチは生まれながらに知っていた。
