日本で紹介されている「冬虫夏草」は
中国における「冬虫夏草」とは別物

 中国における「冬虫夏草」とは、固有名詞として、特定の昆虫(コウモリガの幼虫)が特定の菌(Cordyceps sinensis(Berk)Sacc.)に感染したものを、特定の地域(中国の青蔵高原およびその周辺)で採集したものだけを限定して示す言葉です。いうまでもなく、この菌種は日本には生息していません。
 これに対して、日本では「冬虫夏草」について厳密な定義はなく、昆虫や、クモ類、ツチダンゴ菌、一部高等植物の果実に寄生する菌を総称して冬虫夏草と呼ぶことが多いのです。その数は400種以上を数え、薬理作用などが研究されているのはわずか数種のみです。

 本書では、この冬虫夏草という四文字熟語に対する定義や認識が中国のものと異なっていても、別に異論を述べるつもりはありません。ただ、私は、この認識の違いを商売の宣伝に悪用して、消費者を戸惑わせることが大きな問題だと考えています。
 より多くの方々に冬虫夏草をご理解いただくために、中国伝統の冬虫夏草(Cordyceps sinensis)、および近年注目されているコルジセプス属の一種――サナギタケ(C.militaris)を取り上げ、それらの生態、培養、応用などの実態を調査して取りまとめました。また、世界最先端のバイテクである無菌養蚕システムを紹介し、私たちのサナギタケ培養の開発経緯などもあわせて紹介させていただきました。



(本文より抜粋)
第三章 注目されているサナギタケ

3.1 冬虫夏草と並んで注目を集めているサナギタケ

 サナギタケは鱗翅目や他の目の蛾の蛹、幼虫に寄生します。中国、日本、カナダ、イタリアなど全世界に分布しています。
 「冬虫夏草図鑑」(清水大典著1997年)ではサナギタケについて、次のように書いています。「サナギタケは各種の蛾の蛹、または幼虫に寄生。子実体は棍棒状か長楕円形で、1〜十数本を生じる。肉質、オレンジ色、結実部の高さは1.5〜4cm、径2-6mm。しのう果は半裸生型、二次胞子は2〜3.5Xlμm。発生地は山地の高所から、低地の広葉、針林内の地上に発生。全世界に分布。発生期は6〜9月、10年前後周期で集団発生する。利用法としては、ホワイトリカーに漬け込み、薬用酒にする」。
 サナギタケの効用については、中国の『新華本草網要』(1988)の中に「味甘、性平、肺、腎を益し、精を添え、髄を補い、血を止め、疾を化す」と記載されています。
 また、『中華薬海』(1998)の中にも「甘、平、入肺腎両経」とし、主な効能としては「腎を益し、陽を補う。眩暈、耳鳴り、健忘症、不眠症、腰膝無力の改善、血を止め、痰を化す。腎陽を補い、肺陰を益する。肺腎弱、久咳虚喘、労咳痰血に良好な効果がある」と記載されています。
 『全国中薬亡編』(1996)にも、「サナギタケの子実体と虫の部分は漢方薬として使用できる」と記載されています。
 二十年前から、中国の研究者たちは冬虫夏草の完全世代の培養が極めて困難という難局に直面し、その代用品として着目したのがこのサナギタケです。しかし、なぜ、数百種類もの虫草菌の中から、サナギタケを選んだのでしょうか。
 その最大の理由としては、サナギタケの中には、抗腫瘍性を示すコルジセピンをはじめ、血管拡張作用を有するとされるD−マンニトール、免疫賦活作用があるとされるβ−グルカン、活性酸素を消去するSODなどの生理活性成分が豊富に含まれていることが挙げられます。そのほか、冬虫夏草と比べて、寄生する昆虫の種類が多く、その宿主の飼育も可能で、菌種の分離増殖、同定および人工培養が比較的容易であるという特性があります。
 ここ十数年間の研究により、サナギタケの人工培養をはじめ、成分分析、活性生理物質の作用機序と抽出、薬理作用、臨床応用など数多くの研究論文と成果が発表されました。これらの研究成果をまとめてみると、主に、@サナギタケの形態・菌種系統、Aサナギタケの人工的な培養方法、B化学成分と薬理効果、C薬理成分の抽出方法、Dサナギタケの利用法と臨床応用の五つの方面に分けられます。
 培養したサナギタケ(子実体、または菌糸体)を素材として開発されたカプセル、薬用酒、ドリンクなどの健康食品は中国や韓国、日本で販売されています。中国の瀋陽農業大学で開発されたサナギタケを原料とする健康食品「虫草カプセル」(遼衛監健字(1999)第101号)は抗疲労、抗血脂作用、免疫調節作用があるとされ、アメリカFDA、日本厚生省の輸出品質検査をパスして、承認されたと報告されています。また、薬品においては、1997年に長春製薬会杜が生産したサナギタケカプセルは、臨床実験、毒性実験などを経て、呼吸器系の新薬として中国政府より承認されました(許可番号(97)衛薬試字Z05、Z06)。近年、中国ではサナギタケをガン治療の補助薬として利用する人が増えてきています。
 2007年4月、上海で薬物臨床学会の主催によって「サナギタケの産業化――品質基準と健康増進」というシンポジウムが開かれ、多くの専門家が参加しました。この大会の中で、サナギタケは冬虫夏草と同様に多くの薬理作用を持ち、また、冬虫夏草よりはるかに多量のコルジセピンが含まれていることが明らかになりました。また、すでに承認・登録されている冬虫夏草を原料とする薬品・健康食品は、近年、原料の高騰によって冬虫夏草の入手が難しくなってきたため、その中身がサナギタケで代用されているという現状が取り上げられ、至急サナギタケの国家品質基準の制定の必要性について話し合われています。
 中国では60の企業がサナギタケを生産していますが、品質はバラバラです。国家品質基準を確定することによって、今後、サナギタケの培養生産や関連商品の開発販売に新規参入する企業が増えるだろうと予測されています。
 このようにサナギタケが、高価な冬虫夏草の代用晶として位置づけられてきていることは確かなことです。


著者紹介/陳 瑞英(ちんずいえい)


・1962年中国生まれ。天津大学卒業。

・1987年来日。

・1994年京都工芸繊維大学大学院機能科学専攻博士課程終了。学術博士。

・1992年、ヤンマー株式会社主催日本全国農学系大学生による農業に関する懸賞論文に大賞受賞。日本学術振興会の研究員として無菌養蚕および冬虫夏草菌類に関する研究を行う。島根県と大阪市でバイテク蚕糸生産およびその関連商品の開発と技術指導に従事。日本と中国で蚕糸・虫草菌に関する学術論文を数十編発表、発明特許を4件出願・取得。中国浙江大学城市学院准教授。

監修者紹介/松原藤好(まつばらふじよし)


・1933年熊本県生まれ。

・1956年京都工芸繊維大学繊維学部養蚕学科卒業。同大学助手を経て、1969年農学博士。

・1986年同大学教授。

・1996年同大学定年退官、同名誉教授。現在同大学同窓会会長。

・1993年中国浙江大学客座教授、1996年中国西南農業大学教授、2001年中国山東省農業科学院高級顧問。

・1995年日本蚕糸学賞、1997年蚕糸科学功績賞。

主な著書:カイコの人工飼料育への道(みすず書房)、蚕糸生産学実験実習書(財、衣笠会)、生物環境調節ハンドブック(養賢堂)など、その他学術論文180編。


冬虫夏草とサナギタケの生態・培養・応用
募集要領
販売価格
1,680円(税込、送料別)
体  裁
四六判 並製 本文190頁(カラー16頁)
発行日
2008年11月下旬発行予定